これから大腸内視鏡検査の上達を志す医師の方へ
 私は、平成7年医学部卒業後、群馬大学第一外科に入局し、3年間は、一般的な外科の知識の習得に専念し、その後7年間は群馬県立がんセンター(群馬県太田市)で、腹部手術、特に下部消化器がんの手術に専念してたと同時に、たまに消化器内科のお手伝いで、大腸内視鏡検査をする程度でした。11年目以降、2005年(平成17年)より、がんセンターを退職し、本格的に内視鏡を握るようになりました。

 1年間の検査数は最初の1年(2005年)は800件程度でしたが、翌年(2006年)には1,000件/年を超え、2009年より1,500件/年、2015年には2,000件/年、検査総数は2017年10月頃には20,000件を超える予定です(下図参照)。

 年度/医療機関 深谷肛門科 県立がんセンター 千代田医院 熊谷外科病院  循・呼センター 合計
平成17年度(2005年度) 358 197 134 94 0 783
平成18年度(2006年度) 453 354 163 152 0 1122
平成19年度(2007年度) 527 380 208 185 0 1300
平成20年度(2008年度) 662 343 227 200 0 1432
平成21年度(2009年度) 664 353 210 156 122 1505
平成22年度(2010年度) 777 367 219 167 125 1655
平成23年度(2011年度) 757 321 204 210 114 1606
平成24年度(2012年度) 749 258 214 191 0 1412
平成25年度(2013年度) 1078 290 271 182 0 1821
平成26年度(2014年度) 1149 275 266 199 0 1889
平成27年度(2015年度) 1312 247 285 206 0 2050
平成28年度(2016年度) 1540 239 260 129 0 2168
合計 10026 3624 2661 2071 361 18743
県立がんセンター:群馬県立がんセンター  循・呼センター:埼玉県立循環器・呼吸器病センター


 今まで、大腸内視鏡検査に携わってきた医師との経験談を元に、あえてこの場で言える事は、上達には、「経験数」は欠かせませんが、その数をいかに短期間にこなすかです。つまり、大腸内視鏡検査ばかりやっていた期間を長く作ることが大切です。1,000例経験しても、5年で1,000例と、2年で1,000例では、意味が違います。もちろん、大病院に勤務していれば、一つの事に集中して、その一年を過ごすという事は、決して容易な事ではありません。大病院の内科医であれば、医師数も多いですから、個人の担当する数も減るし、外来もあり、しかも、上部消化管の検査もやらないといけないでしょう。さらに、外科医であれば、オペに何時間も時間を割くこともあるでしょうから、なおさらです。ですが、大腸内視鏡検査というものは、5,000例経験しても、10,000例経験しても、ゴールには辿り着けません(逆に、ゴールと感じてしまったら、それ以上の上達はありません)。ですから、本腰入れて上達したいのなら、ベテラン揃いの病院で、沢山の症例を見て、短期間に沢山の症例を経験する期間を年単位で作る事が大切です。

 手術は、術者と第一助手、第二助手がいます。助手は、術者の手技を直接見て、その技術を真似する事から始まり、自分が術者になった時、学術的根拠を踏まえた上で、こうしたほうが良い、という点が生み出せれば、正当論を踏まえて、その手技を後輩に説得力ある形で、伝えながら上達していけばよいのです。つまり、手術は上司のやっている内容が、そのまま全く同じ視野で見る事ができ、経験する事ができるのです。

 しかし、大腸内視鏡検査はそうはいきません。隣で見ていても、得るものにかなり大きな制限を受けるのです。もちろん、ある程度上達してくれば、今の内視鏡の位置、向きが分かり、その場の解決法を得る有用な手技を知り得る場面もあります。しかし、最初のうちは、上手な医師が検査をしているのを見ていると、「腸の方からまっすぐになって、スルスルと進んでいく、押せば入る。」という印象を受けるだけで終わってしまいます。もちろん、押さないと入らないのですが、押すだけでは入りません。ファイバーを引いたとき、押した時、回転させた時の画像の変化、抵抗の強弱、両手に伝わってくる感覚で、今、どのような形状で、先端はどこにあるのか?そんな事を常に考えながら、情報を整理して、目から手から次々と情報を直接感じながら挿入しているのです。

 しかし、見てるだけでは、それと同じ感覚を体験することは、無論できません。かといって、言葉で説明しても、なかなか表現的に難しく、その情報は非常に伝わりにくいのも事実です。専門書を読んだ方なら分かると思いますが、軸保持短縮挿入法、ライトターン、ショートニング…?なんじゃそりゃ!?と思った方もいるでしょう。ですから、「百聞は一見に・・・」とあるように、この場では、「百聞は一検(検査)または、一験(経験)に・・・」です。とりあえず、書物によって知識を得て、更に自分の手で経験する、「経験数」が大切です。

 また、大都会によくある、主な来院の交通手段が電車である地域の病院では、検査のほとんどの症例を麻酔下で行っている所が多くあります。麻酔をかけてしまうと、もちろん一人で車の運転をさせて帰宅させるわけにはいけません。麻酔をかけると、「痛い」とも言わず、基本的に難所も「プッシュ」でクリアでき、検査をする側にとって、非常に楽になります。しかし、それに慣れきってしまうと、いざ、無麻酔で検査を行っているのが通常である場面に直面すると、その挿入難易度の高さに愕然とします。

 来院手段が自家用車であれば、麻酔は禁忌です。ちなみに、当院への来院手段の約98%は自家用車であり、残された数%は、電車、自転車、徒歩です。ですから、どんなに軽い程度でも、麻酔をかけることはしません。是非、S状結腸を「無麻酔」攻略して、患者さんに「またここで受けたい」と思わせることができる力を身に付けてください。大腸内視鏡検査は、「S状結腸に始まり、S状結腸に終わる」です。いかに、無麻酔下で、「S」を楽に通過するかが課題です。もしそれが習得できれば、近隣の麻酔を使用しているクリニックに一歩差をつけることは間違いないでしょう。麻酔の使用で満足してしまえば、それ以上の上達はありません。

 「当院は、苦痛のない検査を提供いたします。」という標語を都内や大都市のクリニックなどのH.P.では頻繁に見かけます。もちろん、前提としてその多くは、「鎮静剤(麻酔の一種)を使用します」とのことです。逆に、鎮静剤を使って苦痛があるなんて論外です。大腸内視鏡検査施行時における麻酔の使用のメリットよりも、デメリットがどれだけあるかを当然内視鏡検査を施行する医師が熟知していなければならないのは当然です。現在のネット社会で患者さん側も、そのデメリットを調べられる時代になっています。体に負担のかかる麻酔をかけて、苦痛のない検査を提供するより、必要最低限の苦痛だけで難所がクリアできる技術を習得すれば、デメリットだらけの麻酔など、かける必要はありません。→麻酔の是非

 
私自身の感覚ですが、実際麻酔が必要なくらい内視鏡挿入難易度の高い患者さんは、0.5〜1.5%程度です。そのわずかな患者様に遭遇した時には、なぜ難易度が高かったのかを詳細に説明して、次回は麻酔下で行っている医療機関を紹介すればいいのです。「麻酔不要で、検査費用も安価(3割負担で検査だけだと7,000円程度であるのに対し、麻酔を使用すると約20,000円程度)で、2年に一度、気楽に来て短時間に終わる、一人で運転して来院しても大丈夫な、検査が終了したら、すぐに会計して帰れるくらい(麻酔がきれるのをダラダラと寝て待つような事のない)病院の滞在時間の短い大腸内視鏡検査を提供できる医療機関・内視鏡医」最も沢山の患者様に求められる大腸内視鏡検査のスタイルです。

 いつまでも「麻酔」に挿入技術をカバーしてもらっていては、さらなる挿入技術の上達はあり得ませんし、同じような標榜をしている医療機関は沢山あるので、それらに対し秀でた魅力を引き出すには、やはり、一人でも多くの患者さんに、麻酔不要な挿入技術の習得が必須となるのは当然です。

 そして、さらに重要なのは、患者さんの表情を見ながら検査する事です。最初は、挿入している画面だけしか見る事ができず、悪戦苦闘するものですが、少しずつ余裕が出てくれば、周囲のスタッフの様子、コロナビなどあれば、別のモニターなど、情報を与えてくれるものは沢山あります。そして、さらに観察すべきは患者さんの表情です。「S」を越える、脾曲を越える、肝曲をPUSHで超えざるを得ない時など、苦痛を与える可能性のある場所では表情を見て、うまく患者さんとコミュニケーションをとりながら、少しでも苦痛を軽減させる必要があります。言い方が悪いかもしれませんが、「会話でごまかす」のも大切です。でも、これが結構あなどれません。「話術」は非常に大切です。これは、習うものではなく、慣れるしかないのですが、初対面の対人関係の中で、いかに雰囲気を明るく作るか、会話をするこによって、少しでも苦痛を軽減する事は非常に大切です。会話の材料を思いつくのも、経験と能力です。もちろん、麻酔をしていたら、会話は当然不可能です。

 ただでさえ、苦痛という噂が先行してしまっている大腸内視鏡検査です。たいした会話もなく、単に技術力のみでカバーし、「はい、病気はありませんでした。お大事に。」とだけ言われ、苦痛なく終わるのも、悪いとは言いませんが、わずかな痛みがありながらも、うまく話術でカバーして、「先生が話しかけてきてくれたので、ちょっと痛い場所もあったけど、安心して検査を受ける事ができました。」という印象を与えられれば、きっとまたリピーターとして数年後に帰ってきてくれますし、友達、知人、家族もあの病院で検査を!と、勧めてくれるはずです。そうして、患者さんの出身地が波紋のように広がってゆくのです。単に挿入技術だけを強調して、苦痛なく入れる事だけを一心にアピールしているHPもありますが、もっと人間関係を重視して、温かみのある人間同士のコミュニケーションがとれて検査できる内視鏡医になることが最も大切だと思います。

 また、リピーターとして帰ってきてもらうには、挿入技術ももちろんですが、「あの大量の下剤」も患者様には大きな負担となっています。個人的な印象として、味を知らない医師が多すぎると思います。検査を受けたことがあるか無いかではなく、あなた自身があの下剤を飲んだことがあるかどうかです。現在、少なくとも6種類くらいはあります。ぜひ、人に飲ませる前に、味見して下さい。もちろん、自分の味の好みが全ての人に共通するわけではありませんが、試飲して、もし「今採用している下剤よりも、こっちの方が全然うまい!飲みやすい!」と感じる下剤があれば、その下剤の特徴を熟知したのちに、早急に変更した方がよいと思います。(大病院では、なかなか簡単に変更はできませんが、秀でる魅力があるのなら、採用するべきです)。挿入技術に大きな差が無く、他院で美味しい下剤を採用していれば、普通そちらに患者様は流れていきます。

 ここで、UPD(オリンパス社製のコロナビ)について少し触れておきます。いわゆる透視下で見ているような、腹腔内での内視鏡の形状を把握する機械です。映し出す機械も、専用のファイバーも必要で、決して安価ではりません。大病院であればあるほど小回りが効かず、「内視鏡室」という病院全体から見たら小さな組織に、費用をかけることは困難で導入が難しいと思います。新規で開業するようなクリニックで、内視鏡システムを新たに購入し、他院よりも楽な内視鏡検査を提供したいという思いが強いのならば、是非購入した方が良い道具だと思います。以前、「あの機械は、内視鏡初心者のための、盲腸まで入れられるようになるまでの道具だから、先生には必要ないんじゃない?」と言われた事がありました。私はそうは思いません。UPDは、補助輪なしの自転車に乗れるまでの「コマ」ではありません。99.5%(200人中199人)の症例で盲腸まで無麻酔で大きな苦痛がなく到達できるようになっても、「前にやった病院よりも楽だった」「またここで受けたい」と思ってもらえるような、さらなる上達を望む医師には必須な道具です。

 どんなに上達しても「100%盲腸到達」はあり得ません。もし、「私は100%盲腸だ」、いう方は、まだ超高難易度の患者様や、超痛みに敏感な患者様に遭遇していないだけの話です。「盲腸まで入れられるようになったら不要」と思っている医師は、それ以上の上達はありません。症例数、経験数を重ねれば重ねるほど、世の中には、ちゃんと難易度の高い人が用意されています。見たこともない形状を呈する症例、見たこともない痛がり方をする症例をどう攻略するか、その解決法を導いてくれる可能性があるのがUPDだと私は感じています。ちなみに、オリンパスの回し者ではありません。

 大腸内視鏡を握る外科医、内科医がたくさんいる医療機関で働いている医師は、内視鏡室専属の看護師さん達に、「大腸内視鏡検査を受けるなら、あの先生にやってもらいたい」と言われる医師を目指して下さい。内視鏡ナース達は、全員の医師の技量(挿入技術、観察技術)・性格・人間性を全て見抜いています。そうした中で選ばれるのが、その医療機関で一番上手い医師です。しかし、実際問題は、よっぽど上手くない限り、ナース達は自分の勤務している病院では恥ずかしいので検査を受けません。実際にスタッフ達の検査をした、しないは別問題として、「もしやってもらうなら、あの先生だよね」と言われるようになって下さい。ですから、他院の医療従事者が来る、あるいは同じ院内で他科の医師・医療従事者が来る、そして消化器内科の医師からも求められるような内視鏡医を目指して下さい。内視鏡検査に普段関わりの無い医療従事者たちは、大腸内視鏡検査のことを意外と知りません。ですから、内視鏡室専属のナース達に情報を求め、結果的に一番上手な医師を教えてもらっています。普通に考えれば当然です。ですから、自分の仕事仲間のナースの検査を求められたら、大したものです。

 ここまで読んで頂いて、当院の大腸内視鏡検査に興味を持たれた消化器内科医、消化器外科医、内視鏡室で検査に関わっている看護師の方は、こちらへどうぞ。

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