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なぜその場でポリープを切除しないのですか?

 せっかく大量の下剤を飲んで、何度もトイレに行って、大腸をキレイにして受けた内視鏡検査。その時に見つけたポリープをその場で切除してくれれば、どれだけ有難いか…と思われるのは当然の事です。

 無論、そのようなポリープを発見した時に切除しないのは、そのような患者さんの期待に背(そむ)くものであり、希望に添えないのは十分に承知なのですが、あえて当院ではポリープの切除を行っておりません。

 しかし、当院のように、「ポリープの切除をしていません」、と公言している医療機関は極めて少ない事も事実です。なぜかと言うと、そう訴える事で、検査を受ける方が減るからです。

 しかし、医療機関のホームページで、「切除していない事を公言していないから、きっと切除してくれるだろう」と考え、実際に受けてみたら、切除が望まれる病変が見つかった時、「後日、入院してから切除しましょう」と言わる事も珍しくありません。

 「その場で切除してくれないのですか?」と聞いても、答えは「No」となるケースがあります。なぜでしょうか?最も有力な理由は「安全第一」を優先するからです。安全を優先して、否定的に思う方はほぼいないと思います。

 つまり「安全」とは、ポリープ切除後の合併症(出血)に緊急に対応できるように、「入院してポリープを切除する」という個々の医療機関の方針があるからです。

 発見された時点で、すぐに入院できる状況にあればよいのですが、病室が確保できない、本人が入院の心構えで検査を受けていない、という状況での検査ならば、後日、同じ医療機関で、もう一度下剤を飲んで、次回は「入院」という体制を整えてから切除しましょう、という事になるのです。

 ですから、もし、切除が必要な病変があった時に、どのような対応をとってくれるのか、検査を受ける前に、しっかりと聞いて、本人が納得してから検査を受ける必要があります。

 さて、話を戻しますが、当院ではなぜポリープの切除をしないのか、その理由を述べさせて頂きます。

 ちなみに、私自身は、他院(群馬県立がんセンター(太田市)・千代田医院(邑楽郡千代田町)・熊谷外科病院(熊谷市))等で、切除の適応のあるポリープはその場で切除しています。個人的な技量がなく切除を行っていない訳ではありません。

 当院でポリープを切除しない理由は、「患者様を待たせたくないから」です。

 「え!?そんな理由??」と思われますか?医療機関というものは、「待たされるのが当然」という考えをお持ちの方もいますか?しかし、待たされる事に好印象を持つ方はいません。

 当院では午前9時から2時間以内に一つのブースで(つまり「縦」に)1人の医師が5人の検査を行います。恐らく、大腸内視鏡検査に従事している方なら理解できると思いますが、そんなに短時間でできるの!?と驚かれる数だと思います。

 5人の患者様には、1番から5番まで、大体の検査の進行状況によって、分単位で来院してもらう時間をずらして頂いています。

 しかし、ポリープ切除をするとなれば、多かれ少なかれ時間がかかります。それが、ポリープの数や、件数によって、時間オーバーしてしまえば、「9時30分に来てください」という説明をしたにも関わらず、開始時間が10時30分や、11時過ぎたらどうですか?その後の患者様も数人が同様に待たされる事になります。一人の患者様の治療に、後の数人の検査開始の時間が全て遅れる事になるのです。

 これまでの経験上、100人検査をすると、十中八九は異常ありません。逆に外科的手術が必要とされる大腸がんが3~4人います。という事は、その間に位置する「内視鏡的な治療が必要な人」は、10%いません。10人に1人いるかいないか、という数なのです(下図参照)。


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【解説】
 何の治療の必要もない人は80~90%(青)。
 外科的な手術による治療が必要な人は3~5%(赤)。
 内視鏡で治療ができる人が10~15%(紫)
 さらに紫の中でも、ポリープのサイズや、数などが多く、内視鏡で切除が可能であっても、入院を勧められる人(濃い紫)。
 最後に残された(※)マークの部位に当たる人が「その場で切除してくれれば、ありがたい」と思う人(薄い紫)。
 つまり、※マークの人のポリープを切除するとで、他の全ての患者様を待たせてしまう事になります。
 最終的に、全体から見た※の割合は1割いるか、いないかという程度になってしまうのです。




 その薄紫の1人の為に、後に検査が予定されている3~4人が「犠牲」と言っては言い過ぎかもしれませんが、待たされる事になります。

 どうしても、自分が切除してもらう立場なら、そうしてもらいたい気持ちもわかりますが、待たされる立場になってしまうと、その立場も理解できます。全ての人に満足いく検査を行う事は非常に困難で不可能です。個々の医療機関がどのようなスタイルで検査を行っているかで、提供できる診療内容が変わるのです。

 当院の大腸内視鏡検査のモットーは、「2年に1度くらいなら定期的に受けられる、短時間で、1人で来て1人で帰れる、待たされずに、時間の束縛をされない、痛みが最低限な、家族や知人に勧められる大腸内視鏡検査を提供する」ことです。しかし、ポリープを切除することによって、待たされてしまえば、その日に検査を受ける3~4人には提供できないのです。

 では、3~4人に好印象を与えるために、切除が必要な人を「犠牲」にしていいのですか?というのも問題です。ならば、切除したほうがよいポリープのある患者様に、その場ですべて切除すれば、それでいいのでしょうか?

 医療従事者が一番心配するのは、切除後の合併症(術後出血)です。どこの医療機関でも、粘膜を切除して、欠損部位ができて、その部位をクリップで閉鎖するという処置を施すのですが、切除した以上、どんな名医がしようとも、その後の合併症が0%という事はあり得ません

 ポリープ切除後、自宅で夜中に便意が出現して、出してみたら、便器の水が真っ赤になった!などという話は、決して珍しい話ではありません。

 そのまま放置すれば、出血多量で大変な状況になるかもしれません。ですので、中規模~大規模病院においても、内視鏡切除が可能なポリープが発見されても、その場で切除せず、後日入院してから治療する医療機関は珍しくありません。

 もし、ポリープ切除を入院施設の無い診療所、クリニックで行い、そのような大量出血の状況に直面したとき、救急車を呼んだり、大腸内視鏡検査ができる医師が当直している病院を探さないといけなくなったり、最悪の場合、病院のたらい回しの主人公になってしまう可能性もあるのです。

 最も安全なポリープ切除は「入院治療」です。次に、入院施設があっても入院せずに治療する場合や、入院設備のない医療機関で切除する場合は、夜中でも出血などの緊急事態に見舞われた時に、連絡先などを事前に教えてくれて、きちっと対応できる準備が整っている医療機関で検査を受けるのが大切です。

 合併症もなく終われば、文句を言う人はいません。しかし、合併症は0%ではないのですから、我々医療従事者は常に合併症を発症した患者様に遭遇する可能性があるのです。そのような患者様の数をいかに減らすかが、我々の課題です。

 となれば、ポリープ切除に時間を費やしてしまうと、後の人を待たせているという気の焦り、時間に追われるような治療は、操作が煩雑になり、内視鏡の挿入に苦痛を与えたり、予期せぬ医療事故などを招いたりする可能性があります。

 これらの理由から、当院では、「安全な医療」を提供するために、ポリープ切除を行っておりません。ご理解頂けたでしょうか。もし、どうしてもその場で切除して欲しいという方は、当院での検査はできません。

 10人に1人いるかいないかの「内視鏡的に切除ができそうなポリープ」と一言で言っても、その大きさはピンからキリまであり、切除の難易度は大きく変わります。

 そのような病変が発見された時には、その数、大きさ、位置、挿入難易度、他の病気の有無、お住まいなどの地理的条件なども考慮して、どの医療機関に紹介すればいいかを提案し、紹介させて頂いております。
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