さ ま ざ ま な 肛 門 病
   肛門部には多くの静脈が集まって網の目状になっています(直腸肛門静脈叢;ちょくちょうこうもん・じょうみゃくそう)。

 静脈叢に様々な原因(下痢や便秘で負担がかかるなど)で血管が切れ、突然肛門の皮下に血の塊ができることがあります(血栓性外痔核)

 拡張した静脈が集まって、柔らかいイボのように膨れた物が、肛門より中に生じた場合を内痔核(ないじかく)と呼び、肛門の表面近くに生じた場合を外痔核(がいじかく)と呼びます。
 
 そして、痔核が出たまま元に戻せなくなると、強い痛みが生じます。このような状態を嵌頓痔核(かんとんじかく)と呼びます。また、複数の痔核が生じ肛門全体が全体的に脱出する場合が脱肛(だっこう)です。

 直腸内から細菌が進入し、炎症を起こして膿が溜まると、発熱し、痛みが増強します。これが肛門周囲炎で、膿がたまった状態を肛門周囲膿瘍といいます。これが破れて膿が出た後に、管状のしこりが残っている状態を痔瘻(じろう)といいます。

 硬い、太い便が出て肛門が切れれば出血を伴い、痛みも感じます。これを裂肛(れっこう)と呼び、いつも硬い便で、傷が定期的に開かれる状態を長く続けてしまうと、慢性化して潰瘍(かいよう)を形成し、いつまでも痛みと出血が続くようになります。

 注意しなければならないのは、肛門からの出血を長期間放置することです。

 少量の出血でも、長期にわたる場合、貧血が進行し、疲れやすくなったり、眩牽(めまい)を起こすことがあります。このような場合は放置せずに、直ちに血液検査を受け、貧血が強い場合は、適切な処置を受ける必要があります。

 痔のほかにも下血がみられる疾患として、大腸憩室症(けいしつしょう)や、大腸に炎症を生じる潰瘍性大腸炎クローン病大腸ポリープ虚血性腸炎(きょけつせいちょうえん)などがあります。

 また大腸がん肛門がんなどのように、進行すると取り返しのつかない病気もあります。通常は40才以上の方に多いのですが、時には、20才代にもみられることがあります。また若年者ほど発見された場合に進行している場合が多く、一刻も早く治療を受ける必要があります。

肛 門 病 の 症 状 
【1】 痛み

 持続性の激しい痛みに発熱を伴うような場合は、急性の肛門周囲炎や肛門周囲膿瘍などが考えられます。一方、排便時や、その後も続く痛みの場合は、裂肛(きれ痔)が考えられます。また、突然肛門に丸いしこりができて、痛みが続く場合などは、血栓性外痔核(いぼ痔)が考えられます。
【2】 出血下記参照

 排便時にポタポタとたれたり、ほと走るように出る場合などは内痔核が考えられ、痔がひどくとび出して、出血する場合は、脱肛が考えられます。そのほか大腸がんをはじめ、大腸の様々な病気(後述)も出血の原因となります。
【3】 膿

 激しい痛みの後、膿が排出され、その後その穴から絶えず膿のような物が出続けたり、しこりのようなものが消えないる場合には、痔瘻が考えられます。
【4】 かゆみ

 肛門周囲の湿疹や皮膚炎が考えられます。また糖尿病、アレルギー、女性ではホルモンの関係でかゆくなることもあります。

症 状 考えられる疾患 
肛門部にある日突然、丸いしこりができてずきずき痛む 血栓性外痔核(血まめ)
排便時に非常に痛みが強く、そのあとしばらく痛みが続く 裂肛(きれ痔)
肛門の周りが日毎に痛みが強くなり、さらに放置すると発熱する 肛門・直腸周囲膿瘍
アテローム
排便後、痔核が出たまま入らず、それ以後痛みが激しくなる 嵌頓(かんとん)痔核
走るように出血したり、ポタポタ出血したりするが痛みは少ない 内痔核、肛門ポリープ、
大腸憩室症
粘液や、赤褐色の血液の混じった便がでる 大腸がん、肛門がん
潰瘍性大腸炎、クローン病
排便時に肛門部が外に出て、出血がみられる
脱肛
痔核が出たまま入らずに痛み、肛門内に収納できない 嵌頓痔核
排便時にいきむと腸が外へ長くたれて出る 直腸脱
肛門の周囲に管状のしこりが触れ、分泌物がでることもある 痔瘻
肛門内から粘液などが出て、じめじめする 脱肛、直腸脱
肛門の周囲がかゆい 肛門周囲湿疹
肛門皮膚掻痒症
痔瘻、脱肛など
肛門病の名称

昨日までは何の症状も無かった、
痛みも無かったのに、突然今日になって、
トイレの水が真っ赤になるほど出血した!
「がん」なのかしら…急に心配に…。
 原因は何でもいいのですが、肛門から出血する事を医学的に「下血(げけつ)」と言います。

 実際にタイトルのような訴えで当院を受診する方は結構います。日々診療をしていると、そのような訴えの患者様に遭遇する事は珍しくありません。

 下血は、痔(肛門病の総称)の最も代表的な症状の一つですが、その現れ方によって、非常にインパクトを与える症状です。誰でも、用を足した後、流す前に、便器に溜まった水が血で染まっていたら、ビックリするのは当然です。

 男性の場合、便器の水が赤くなるという事自体が非日常的なものです。女性においても、予定外(生理で想定される期間外・閉経後)に赤くなれば、大腸の病気も考えると同時に、婦人科領域(子宮がんなど)の病気も考えないといけません。

 私は男なので、その出血が膣からなのか、肛門からなのか、「感覚的に分かりますよね?」とか、「分かりにくいですよね?」とか、コメントのしようがありませんが、その点に関してはご了承下さい。とりあえず、この場では、「下血」、つまり「肛門からの出血」がテーマなので、婦人科の病気の症状などは割愛させていただきます。ちなみに、予期される期間外の膣から出血は「不正出血」といいます。

 肛門からの出血といっても、その量と頻度によって、患者様の訴えも大きく異なります。

 最も少ない程度の下血ならば、「時々(数週間から、数か月に一度くらい)、拭いたティッシュが一部が赤くなった」という程度ですが、頻度が増えてくると、「週に数日」とか「二日に一回」という頻度になります。しかし、数週間に一度程度の出血は、気付かない事も珍しくありません。

 いちいち拭いたティッシュは見ない、流す直前も全く見ない、チラっとしか見ないという方もいれば、健康には細心の注意を払ってガン見する、と様々です。もちろん、観察していたほうが良いには決まっていますが、毎回しっかりと見ている人が、どの程度いるのかは不明です。とりあえず、たまたま視野に入ったその水が、血で染まっていたらビックリしますよね!?というお話です。

 誰もが一番心配するのは悪性腫瘍、つまり「大腸がん」です。他のページでも説明したように、大腸がんは、小さなポリープが数年の時間をかけて成長していきた結果です。がんの表面は正常の粘膜よりも「もろい」ので、腸内を流れる便と摩擦する事で容易に出血します。原則的にそのポリープや、がんのサイズによって出血量も増えるので、月単位、あるいは、年単位で徐々に出血量が増えてくるのです。

 手術が必要な大腸がんがある患者様の典型的な訴えは、「痔があるのは分かっていたので、時々出血のは日常の事で、だいたい何日かすれば止まっていたんだけど、今回は、なかなか止まる気配がなく、むしろだんだん増えてきた感じで、心配になって病院にきました。」というパターンです。

 何が言いたいのかというと、「ある日突然、大量出血するような腫瘍が出現する」ということはあり得ませんので、ある日突然トイレの水が真っ赤になるような出血の原因が「大腸がん」という確率は非常に低いです。いわゆる「がんっぽい出血ではない」のです。

 ですが40歳以上であれば、出血などの症状が何も無くても、大腸がんを否定する為に、大腸内視鏡検査は当然受けておかなければいけない検査です。「出血に対して免疫ができてはいけない、慣れてはいけない」という事です。もちろん、その検査によって、症状のない早期のがんが発見されることもあるのです。




 痛みのない、ある日突然の多量の出血の原因は何が考えられるのか?


@可能性が最も高いのは、肛門の良性疾患、いわゆる「痔疾患」です。


 「内痔核」とは、肛門入ってすぐの直腸内に膨らむ静脈でできた柔らかいなクッションのような組織で、肛門を隙間なく閉じるための「ゴムパッキン」のような働きをしています。

 ここに便が擦れて、表面の一部が裂ければ、便器の水が真っ赤になるような量の出血があっても珍しくありません。また、直腸という痛み感覚が無い場所なので、「痛くないのに血が出た」という結果になります。

 時に、切れ痔から出血するのだから、痔の出血なら痛い、大腸の中で、何かわからないけど、何か別のヤバイ病気からの出血なら痛くない、と安易に判断する方がいますが、非常におおざっぱすぎる判断で、痛みの有無で病気は判断できません。


A次に大腸憩室(けいしつ)症です。


 悪性の病気ではないのですが、加齢によって発生し、内視鏡では、ポリープのような隆起とは対照的に、小さなポケットのような「くぼみ」として確認できます。特にS状結腸に多く発生し、次に上行結腸(右側にある大腸)によく見られます。

 よく遭遇する疾患で、発生する個数にも個人差があり、悪性の病気ではないので、「あ、憩室がありますね」という程度で、治療の対象にはなりません。

 数個なら全く問題ないのですが、もともと太くないS状結腸に密集して発生すると、腸自体の内腔が狭くなり、内視鏡の挿入難易度が高くなり、検査時の痛みが強くなったり、内視鏡前の下剤を飲んでも、キレイに洗浄しにくくなります。

 また、内腔が細くなる事で、ここで便が細く「加工」されて、太い便が出なくなります。内視鏡を定期的に受けていて、直腸がんなどの手術の経験が無いにも関わらず「便が細い」という方の原因のほとんどは、憩室によるものと思っていいと思います。

 診療をしていると、「太い便が出なくなった」と言って、大腸の病気を心配して受診する方がいます。もちろん、受診するきっかけとして、間違いではありません。何が原因で細くなっているのかを調べるので、大腸内視鏡検査をする事になります。

 内視鏡検査の結果、がんが発見されれば、その治療を進めるのが当然ですが、がんは発見されず、多数の憩室があって細いのならば、治療は必要ありません。

 太いのが出ないと、気になる気持ちも分かりますが、結局は、がんが原因でなければいいのです。太いのを出せば、肛門が切れて、痛みや出血の原因になります。肛門にとっては、細い便の方が、「お尻に優しい便」という事になるのです。

 さて、そんな憩室ですが、へこみの部分に血管が露出して、ここに腸の蠕動運動(内容物を肛門まで送る収縮運動)によって便が摩擦することによって血管が切れて、多量に出血を招いて、結果的に「痛くもないのに血が出た」という結果になります。



 ある日突然の大量下血の原因は「痔」と「憩室」が原因である可能性が高い!

 他にも虚血性大腸炎や、潰瘍性大腸炎といった下血を伴う病気もありますが、それらの疾患の場合、他に「腹痛」、「下痢」などといった他の症状が伴うので、このページで解説している「昨日まで何の症状も無かったのに、今日になっていきなり多量の出血とは、どういう病気?」という選択肢にはなりにくい病気です。


 では、その後の行動は?


 イラストにあるような真っ赤な水面を見たら、当然、原因を見つけなければなりません。そして、最悪の病気を否定しておかなければなりません。すぐに大腸内視鏡検査を行っている医療機関を探して受診することが必要です。

 ※「多量の出血」が何日も続くと危険ですが、多くの場合は、4〜5回排便の色をよく観察すると、次第に「赤色」が薄くなってくる事が多いようです。

 誰もが、転んで膝を擦りむいて出血した経験はあると思いますが、時間が経てば、出血というものは自然に止まります。これと同様に、数回の排便後には、色が薄くなる事が多いのです。

 ※「多量の出血」とは?

 もちろん便器の水が血で染まるような量です。女性には、「生理の多い日のような出血が毎日持続するような状態」と言えば理解しやすいらしいです。女性看護師が女性患者さんに説明して非常に納得していたので、引用させて頂きました。

 とりあえず「赤色」が数日で薄くなってきているなら、内視鏡検査が数週間先になっても、そんなに心配する事はありません。


 突然の多量の下血にビックリしない秘訣は?


 @約2年に一度は大腸内視鏡検査を受けておく。
 A時に出血する痔があるのなら、適切な治療を受けて、出血源を無くしておく。


 これさえ守っておけば、「ある日突然の大量下血」に、そうビックリする事はありません。やはり自動車のように、日頃から定期点検を受けておくという事がとても大切です。